Spo-An トーク | 金沢大学インタビュー

お話をうかがった方
金沢大学 ボランティアさぽーとステーションの皆様

前列左から
代表:喜多見浩介さん(地球社会基盤学類2年/全体統括と会計担当)
副代表:湯澤実柚さん(地域創造学類2年/Instagramで活動発信など広報担当)
支援統括:小幡陽子さん(学生支援課長/学内ボランティア募集、助成金申請など活動支援)

後列左から
副代表:間山春太郎さん(法学類2年/災害派遣班の代表でスケジュール管理などを担当)
顧問:原田魁成先生(人間社会研究域経済学経営学系講師/引率や安全管理、活動報告作成等)

金沢大学「ボランティアさぽーとステーション(ボラさぽ)」は、2011年の東日本大震災を機に、課外活動団体として発足。以来、各地で災害支援の輪を広げてきました。
2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」において地元・金沢大学は、早期に能登里山里海未来センターを設立し、自治体と協働しながら復旧・復興を進めてきました。
「ボラさぽ」も、同大学学生主体の災害ボランティア団体として、輪島市を中心とした被災地に月2、3回の派遣や毎週ペースの傾聴活動をはじめ、他の大学や支援団体との合同支援を実施。災害・医療、傾聴活動、広報など8班体制の支援で被災地に寄り添い続けています。
今回は代表の学生らと、活動を身近で支える教職員のお2人に、思いや学び、展望を伺いました。

自分たちを突き動かしたのは「人の役に立つ活動をしてみたい」という純粋な気持ち

能登半島地震発生時、大学受験本番を間近に控えていた皆さんは不安も大きかったと思います。大学に入学してから、災害ボランティアを身近に感じたんですか?
力こぶ
華奢な私でも人のために力作業を買って出る

(湯澤) 地元が石川県で、当時、県内外からたくさんの支援者が来てくださっているのに自分が受験期で何もできない状況がもどかしくて。無事合格できたら、自分も被災された方々のために活動したいと、受験勉強しながらも強く思っていました。
 
(間山) 地元は北海道で、昔から、助けを求める人に応えたいという思いがありました。法律で学びたい専門分野を研究できる金沢大学を志望した時から「ボラさぽ」の存在も知っていたので、入学後すぐに参加しました。北海道とはまた違った雪質の金沢ですが、自然環境も素晴らしくて活動にも熱が入ります。
 
(喜多見) 京都の出身なんですけど、幼少期から天気予報が大好きで、そこから自然災害への関心が高まりました。能登半島地震を機に、知識だけじゃなく、被災地に対する支援への思いも強くなって、入学後に「ボラさぽ」を知って参加しました。僕らの代で加入者が一気に増えて、現在は100人規模です。代表になって、予想以上にボランティア漬けの日々ですが(笑)、座学だけでは知り得ない、大切なことを学ばせてもらっています。

高齢化が進む地域での大学生による「クロスジェネレーション」の支援活動

活動から2年目を迎えて、ニーズに対応できることも広がってきましたか?
漆器洗い
汚れた漆器を丁寧に拭きあげる

(間山) 初めは民家の泥出しやがれきの撤去、家財の運び出しなど、とにかく力作業に人手がほしい状況でした。最近はニーズが多様化して、傾聴活動、高齢者の方へのスマートフォン操作指導、祭りの神輿担ぎなど、求められる役割も細分化しています。

重蔵神社(石川県輪島市)の神事で使う輪島塗の漆器洗いも、その1つです。大学生にはなかなか触れる機会のない大変貴重なものばかりですが、富山大学の漆器洗いの専門知識を持つグループと連携して行っています。「手袋をはめずに、素手で愛でてください。漆器も手の温もりを感じることが大切だから」と言われるんですけど、中には人間国宝の作品もあって、最初は、緊張で手が震えていたこともありますよ。
 
でも、その貴重な体験がきっかけで、「輪島塗の素晴らしさを普及する活動を考えてみたい」という学生の声も出てきていますね。

地元の文化伝承も、能登の復興には欠かせませんね。活動の中で、少しずつ被災者にも笑顔が戻ってきたと感じる瞬間があると思います。自分自身にも、成長のような変化はありますか?
足湯
足湯をしながら話し相手に

(湯澤) 私自身をこんなにも必要としてくれている人がいる、自分も人の力になれる存在なんだと思えるようになりました。
 
私は自分たちが主催する「寄ってきまっし交流会」という傾聴活動の場が大好きです。「寄ってきまっし」は、金沢弁で「寄っていきなさいよ」というニュアンスで、私のおじいちゃん、おばあちゃん世代の方が「待っていたよ!会いたかったよ!」って、本当の孫のように出迎えてくださるんです。傾聴活動で“スマホ”の使い方も教えるんですけど、地元の紙媒体に私たちの活動が紹介されると、「ほら!ここに写っとったよ!」って、携帯カメラで撮影した紙面を見せてくれます。幸せな気持ちなりますよね。皆さんを支援するつもりが、逆にたくさんの優しさとパワーをいただいています!
 
将来の夢を聞かれると、まだ、明確にはないんですけど、誰かの役に立てる仕事ができるかもしれないって自信にもつながります。
 
(原田先生) 学生は、みなさんの“推しアイドル”みたいになっているよね!「復興の元気の源だよ!」とたくさんの声をいただいています。高齢化が進んでいる地域ですからね。祭りの神輿担ぎは、学生の覇気が“地元祭りの復興”にも一役買っていて、街自体が若返るようです。

心のケアにつながるアプローチを、未来を支える子どもたちとその親に

学生による、子どものための、親子で楽しめるイベントも始めたそうですね。
全ての世代が被災者

(原田先生) 今春から重蔵神社と協力して始めた「おかしまつり」では、子どもたちが学生と遊べるコーナーをつくりました。大人が地元出店のお菓子やパンをコーヒー片手に楽しんでいる間、子どもたちは体力ある学生のおんぶや抱っこに大興奮でしたね。
 
(喜多見) 実は、仮設住宅への見回りボランティアで、お子さんのいる家庭の切実な問題を知りました。被災前に比べて家が隣接しすぎていて子どもも静かに過ごさなければならないし、元は遊び場だった敷地に仮設住宅が建てられたことで安心して遊べる場所が減ってしまったそうです。
 
「おかしまつり」は、子どもたちにとってストレスフリーで思いっきり気の向くまま楽しめるイベントだったんじゃないですかね。僕はちょっと体力ないんですけど(笑)、被災地支援で子どもたちに深く関われたのもこの時が初めてで、一緒に笑えて本当にうれしかったです。改めて、子どもたちの笑顔を守ることが大切だと感じています。

復興については住宅問題やインフラ整備が注目されがちですが、未来の能登を支える子どもたちの心のケアは同じように重要な課題ですね。
子どもの遊びは 親の憩いの時間

(間山) 僕は少年法を学んでいます。被災後の強い生活不安から親が不仲になることで、子どもたちの精神的な成長に影響を及ぼしてしまい、少なからず非行や犯罪に繋がってしまうケースもあると知りました。将来、刑事政策の仕事に携わってみたいとも考え始めています。
 
実際に被災した人にしかわからない苦悩はあると思いますけど、僕たちの子ども目線の活動が、少しでも親子の心の助けになっていればいいですね。
 
(原田先生) 現地で開催の「こども食堂」でも、子どもにははしゃいで、親御さんにはほっと一息ついてもらいたいですね。食を通じて、心も体も元気になれる場を提供したいです。学生も「次も絶対に来てね!」と子どもからラブコールを送られ、能登を好きになるきっかけになっているようです。

合言葉は「オール金沢大学」

被災現場の片付け、傾聴活動や募金、避難所支援などの形で、現在まで約1700人の学生・教職員を能登半島の被災地に動員しているとのこと。大学全体で協力体制にありますね。

(小幡課長) 現地での運転支援不足の相談を受けて、教職員が参加しやすくなるよう、学生引率や運転支援に限っては一部旅費支給もできる出張扱いとして制度を緩和しました。また、ボランティア休暇や年次休暇を取得し、能登の災害支援に限らず、通常のボランティア活動に参加する教職員も増えました。
課題は活動資金の確保です。能登復興未来創造基金(前「金沢大学被災学生・施設支援等基金」)を設置して、寄付金を募っています。資金はボランティア活動だけではなく、震災・防災の研究、医療や福祉、教育のあらゆる分野で必要です。
 
(原田先生) 大学間の支援の輪も広がっています。早稲田大学との交流活動をはじめ、東北大学、東北福祉大学からは東日本大震災、熊本学園大学からは熊本地震の経験共有の学びもあり、自分たちの活動モデルにしています。2025年8月末には「第22回全国大学コンソーシアム研究交流フォーラム」で、被災県の神戸学院大学の協力で災害復興支援の報告会も予定しています。
 
(学生) 「人の役に立ちたい」という同じ思いで金沢大学で縁あって一緒に活動しています。「オール金沢大学」を掲げて、県内外の有志の方々の応援もいただきながら活動が果たせていることに感謝しています。
 学生の体力、発信力をフルに使って支援を続けながら、学びを防災につなげていきたいです。
 これからも頑張ります。

スポーツ安全協会は、大学災害ボランティアなど意欲的なみなさんと共に社会貢献を目指しています。

金沢大学については、2024年から能登半島地震のボランティア活動を助成し、2025度からは、「地域スポーツ・文化活動等振興モデル拠点事業」として、同大学の「被災地・被災者支援のための持続可能な協働ネットワークの構築事業」を採択しました。ボランティアやサークル活動活性化のためのネットワーク・コミュニティの形成を図ってくれることでしょう。

当協会は今後も、みなさんの活動を応援していきたいと思います。