スポーツ安全協会では「楽しい」という体験を起点に、一人ひとりの可能性と地域のつながりを広げていくことを目的に、2026年3月24・25日に国立オリンピック記念青少年総合センターにて「fun sport nexus」を開催しました。
今回のスポあんトークでは、本トークセッションのダイジェストをお届けします。

改正スポーツ基本法では、スポーツの多様な意義や、これまで学校中心だったスポーツ環境を地域社会全体で支える方向が明確になりました。
こうした流れを受けて、当協会は「よりよいスポーツ環境づくりに貢献し、だれもがマルチスポーツや文化活動を楽しめる場をつくっていきたい」という思いで「fun sport nexus」プロジェクトを立ち上げました。
「fun sport nexus」の目的は、スポーツや文化活動を通じて人と人が「つながる、広がる」こと。そして、一番大切にしている「楽しむ」ことです。
スポーツを競う場だけでなく、「楽しみ、つどい、つながる場」と再定義するスポーツカルチャープロジェクトとして、継続し、定着させていきたいと考えています。
「監督、怒らなくても勝てます!」 大切なのは、子どもたちが安心してチャレンジできる場をつくること

一般社団法人監督が怒ってはいけない大会 代表理事、元バレーボール女子日本代表

今日は、会場で子どもたちとソフトバレーの体験をやってヘロヘロです!子どもたちが「もっとやりたい」、「スパイクしたい」と夢中になっていて、やっぱり楽しむことがやる気をつくるんだなって感じました。
同志3人で細々と始めた「監督が怒ってはいけない大会」。最初は批判の声もありましたが、多くの皆さんとつながれて、12年目を迎えます。
活動のきっかけは、私自身の経験です。現役時代、怒号や理不尽な厳しい指導を乗り越えないと「強くなれない」という風潮が強く、こういうのを成功体験だというアスリートもいますけど、私には耐えられなかったですね。
やっぱりスポーツは楽しむもの。
私たちの大会のテーマは、「怒りを使わなくても勝利と育成、両方手に入る指導方法があるはず」ということです。指導者の、勝たせようではなく、成長させようという気持ちが、ジュニアユース世代には必要じゃないかなと思います。
試合前は、私たちは時間をかけて笑顔のウォーミングアップをするんです。チーム対抗リレー、〇×クイズも盛り上がります。
スポーツマンシップセミナーでは「かっこいいスポーツマンとは?」と参加者に投げかけ、子どもたち自身に考えてもらいます。大人は答えを用意しません。
監督さんにはアンガーマネジメントセミナーを受けてもらい、抑止力とか危機管理で怒らなければいけない場合以外は、しっかり子どもたちが分かる言葉で伝えてくださいと話します。
絶対に怒っちゃいけないのは、試合中のミス。チャレンジとみなすことを参加者全員の共通認識としています。
大会10年目の2024年、初回から一緒に活動してくれている福岡・幸袋ジュニア男子チームが、初めて全国大会に出場して優勝しました!
監督から「怒らないでも勝てました!」とメッセージをいただいて本当に嬉しかったです。このことがあってから、声を大にして「怒らなくても勝てます!」って言えるようになりました。
他競技にも理念を広げたいと、2021年に一般社団法人を立ち上げて、たくさんのアスリートの協力もあり、今では、サッカー、ハンドボール、水泳など、北海道から沖縄まで全国に広がりつつあります。
スポーツマンシップセミナーの後、やりたい人が、言葉も自分たちで考えて選手宣誓をします。
大人がやらなければいけないことは、子どもたちが安心してチャレンジできる、ミスできる環境をつくってあげることで、私たちは命をかけて取り組んでいます。たくさんの方たちと“コラボ”して、つながっていくのもまだまだ必要です。
そして、この活動が必要なくなること、「もう必要ない」と言われることが、一番の目標ですね。
まず、やってみる楽しさ。「ぱん食い競走」でスポーツへの入り口を創出する

ぱん食い競走協会 会長、世界陸上 400メートル銅メダリスト

あんぱんの発祥とされている木村屋總本店の7代目社長と私が同世代というご縁で、「パン屋さん」と「走っていた人間」でなにかやってみようと「ぱん食い競走協会」をつくりました。ルールもないし、ふざけているからこそ真面目にやった方がいいと思って、パンの袋を洗濯バサミで挟む圧力も、協会推奨があります(笑)。
私は比較的競争スポーツのエッジのところにいました。オリンピックも経験させてもらい、元オリンピアンが次を育てていくことでトップ選手がつくられていくというのは大事なことだと思う一方で、その入り口をつくるのが、実はなかなか難しいわけですね。それなら自分は、普及とかスポーツがあまり好きじゃない人の入り口のところをやりたいな、と。それで「ぱん食い競走」をスポーツと位置づけながらやっています。
私の感覚だと日本のスポーツ界には大きく3つの課題があると感じています。
第1に、「スポーツは教育だ」という人が多い。ドイツは内務省に組み込まれていたり、国によっては観光に組み込まれていたりすることもあります。意見はさまざまですが、スポーツを遊びではなく教育と捉える日本は、それが強みでもあり、課題でもあると思います。
第2に、スポーツや競技に関する協会がたくさんある。各協会が管理しているそれぞれのバックオフィスデータやシステムをシェアしたらどうでしょうか。少子化傾向ですし、みんなで力を合わせていくといいんじゃないかと思っています。
第3に、自主性の中で「楽しむ」のが、欠けている。それを象徴する面白い話があって、イギリスのある街に駐在の日本人がよく利用するテニスクラブで、あるとき、「NO(ノー)トレーニングクラブ」って看板に書かれたそうなんです。「うちはスポーツクラブなのに、なぜ、日本人はいきなりゲームをやらないんだ」って。
日本のスポーツの感覚は、練習をしっかりして基礎を積み上げていって、ようやく試合。ケガをしないためにもやるべき手順なんですけど、最初にいきなり球を打ったって、走る楽しさを覚えたっていいというわけですね。
私は日本のスポーツ向上には、教育も大事にしながら“エンタメ”を増やすとか、セクションを超えてみんなでなにかを創造するとか、いきなり試合をして楽しむことがあってもいいかなと思います。
引退して、教育の面で一番学びになったのが、ブラインドクライミングを教えてもらった経験ですね。私がガイド役で的確な指示を出して、登っている方が一番になったゲームがありました。でも、開催者から「為末さんは、彼のゲームを奪っちゃダメでしょう」と。
考えることは、その選手がやることなんですよね。
私は益子さんの話にいつも感動するんです。選手自身に枠組みを与えて、どうやったらいいかを考えて動き出させる、この加減がコーチングの一番大事なところですよね。子どもたちが、自分でやっているって実感、失敗できる自由と、それでも怒られない楽しさ、それを味わうために大事なんじゃないかと。
私は、遊びに近いスポーツの領域で社会をよくしていきたいですね。
エビデンスを元に、子どもたちを中心に据えたスポーツ環境の「再現可能モデル」をつくる

一般財団法人渋谷区スポーツ協会 専務理事、博士〈スポーツウエルネス学〉

渋谷区スポーツ協会は部活動改革プロジェクトに取り組んでおり、2026年4月からは、すべての区立中学校で、平日も週末も指導を担当する外部指導者「ユナイテッドコーチ」の運動部への配置を完了します。また、4校の吹奏楽部でも同様に地域展開を開始するので、全国的には先駆けた取組になっているかもしれません。
部活動改革のポイントは、地域クラブになったとしても、あくまで生徒の「自発的な参加」を軸にすることです。これは益子さん、為末さんから出た大事なテーマでもありますね。また、生徒それぞれが望む多種多様な活動に参加できることに加えて、活動を支える側の人々がウェルビーイングを向上させること、そして地域社会の活性化も大事にしていきます。
とは言え、生徒の“主体性”を育むといっても、その捉え方が曖昧だったり、大人のウェルビーイングを実現する体制を構築する方法は、まだまだ具体性に欠けていたりします。
そこで、私たちは“渋谷モデル”が全国にも広がるように、再現性のあるデータ等の「見える化」を目標に活動しています。
まず、渋谷区では、生徒の主体性を育む体制として、プレイヤー=生徒を中心に、指導者や保護者といった複数の大人たちがサポートする「プレイヤーズ・センタード」の体制を率先して実践しています。また、主体性を具体的に捉えるために着目したのは、「自己調整能力」という概念です。海外の研究ではスポーツの競技力が高い人は自己調整能力も高いという報告もありますが、目標を設定し、計画、実行、モニタリング、振り返り・修正を行う一連のプロセスを自らが推進する力です。それを測るための質問項目の妥当性と信頼性を高めるために、公立中学校の生徒を対象に数百サンプルを何度かとって指標を完成させたので、とても乱暴に言うと、アンケートに答えると自己調整能力=主体性を見える化することができます。もしかすると、益子さんが推進している「監督が怒ってはいけない大会」に出ている子どもたちは、自己調整能力が高い、というような可能性もあるかもしれません。
一方で、子どもたちが主体的になるには、自身と向き合うことも大事です。発育発達期にある子どもは成長速度も異なりますし、たとえばPHV(=Peak Height Velocity。身長の伸びが最も速くなる時期)のデータ等を提供しているのは、自身の成長を客観的理解するとともに、指導者が子ども一人ひとりと向き合うための科学的な根拠にもなり得ます。
それから、スポーツに対して感じる“価値”って一人ひとり違いますよね。スポーツを通じて教育的な価値があると思う人もいるでしょうし、スポーツそのものをシンプルに楽しむ人もいる。競技レベルを上げるのが面白い人もいますし、上達よりもただ気晴らししたい人もいる。そういった「価値意識」を見える化するデータもとることで、指導者とのマッチングやクラブの方向性を決めるのに役立てて、子どもたちにとってミスマッチや機会損失にならないように取り組んでいきます。
東京大学との共同研究では、部活動改革に関わる大人たちのウェルビーイングが高まっているのかも調査しています。自身の住んでいる場所よりも、指導を担当している学校のエリアに愛着を持っていることを示すようなデータもあって、指導者不足が社会課題となっていますが、部活動改革を通じて地域コミュニティや人々との関係性や絆が強まるのであれば、参加する別の意義になるかもしれませんし、部活動の課題解決に留まらず新しい“まちづくり”にもつながるのかな、と感じます。
部活動改革を属人的なものに留めず、渋谷モデルがこの先にも持続可能で、本質的には全国にも波及できるような再現性を高めるには、やはりエビデンスをベースにしながら、試行錯誤を繰り返していくしかないと考えています。

公益財団法人スポーツ安全協会 専務理事