
中学からブレイキンを始め、ブレイカー(ブレイキンダンサー)「Marrock」として活動した後、指導者、運営側に転向。2024年パリ五輪・ブレイキン日本選手団監督も務めた。現在は、渋谷区を中心としたアーバンスポーツを通じて、子どもたちや若者が地域とつながるコミュニティづくりにも尽力している。公益社団法人日本ダンススポーツ連盟 理事、一般社団法人渋谷未来デザイン スポーツプロデューサー。
2024年パリ五輪で初めて正式種目になったブレイキンは、日本人選手の活躍もあり、競技スポーツとして認知され始めています。派手な技や激しいバトルを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、「自分らしさを表現する自由と、相手をたたえて人とつながれる対話が根っこにある」とマーロックさん。その魅力を、地域社会とのつながりも交えて、深掘りしました。
「ありのまま」で輝ける自分と他者を認め合う、ブレイキン
ご自身のブレイキンとの出会いを教えてください。
中学生のとき、テレビ番組で床の上を回るブレイカーたちを見て、「あり余っている体力をぶつけるなら、これだ!」と一瞬で魅了されました。母がダンスをやっていた影響もあって、気づけば毎日練習していましたね。当時は、やっている人も少ないし教えてくれる人もいなかったので、ビデオを何度も巻き戻して技を覚えたんです。失敗しても何度も挑戦して、いつの間にか仲間が増えて、僕の居場所ができて。
大学までプレイヤーを続けたんですけど、ケガもあって、イベントや競技会の運営、指導者側に転向しました。
見る人をくぎ付けにする技も繰り出されますよね。魅力って何でしょう。

最大の魅力は「ありのままの自分でいい」ということですかね。
技も、自分のスタイルを見つけないと、ただのコピーで終わってしまう。
ブレイキンのコミュニティでは、みんなが“違い”をリスペクトしてくれます。バトルの勝敗以上に「いい動きするじゃん!」という仲間、観客の声が嬉しい。
そこには、他者を認めるカルチャーがあるんです。
「ありのままのダンス」として印象に残っているエピソードはありますか?
小学校のワークショップで、初めは恥ずかしそうにしていた子どもたちが、音楽が流れ出すと自然と体を動かし始めて、どんどん笑顔になっていったんです。決まった型がないブレイキンには「心を解放する力」があると実感しました。
パリ五輪では、ブレイキンを初めて見るような観客が多かったと思うんです。でも、すごい技に対してだけでなく、かっこいいダンスには歓声が自然と上がっていたし、リズムに合わせて手を叩いたり身体を動かしたりして応援する人もいました。テクニックだけではなく、音楽に乗ってブレイキンで表現する姿を会場中の人がたたえていましたね。
「隙間カルチャー」が消えてしまったら、街はつまらない
昔はガラス張りのビルや駅の前でダンスする若者をよく見かけたんですが。
僕もよく駅前で練習してましたよ、駅員さんに注意されながら(苦笑)。本来、都市の隙間でやるのが我々のカルチャー。今でも、僕がやっているのは「隙間産業」だと思っています。でも、最近の街は、隙間がどんどんなくなってきている。「ここでは、これしちゃいけない」ばかり。
街の風景に溶け込めるスポーツ。これって、特殊。駅を出た所に集まってテニスをやっていたら、変じゃないですか。でも、ブレイキンは、「やってるんだ」ぐらいにしか思われない。ストリートカルチャーの大事にしていかないといけない部分ですよね。
人が集まるから、コミュニティができて、カルチャーができる。
競技性が高まってしまったがゆえに、本来のカルチャーが消えてしまったら、つまらないですよね。
一方で、若者の活気を取り戻すために、“出て行ったカルチャー”を呼び戻そうと取り組む街もあるわけで、変革期にありますね。
実際に自治体との取り組みも進んでいますか?

渋谷区や区のスポーツ協会などの協力を得て、僕も「Next Generations」(同実行委員会・渋谷未来デザイン主催)というプロジェクトに関わっています。ストリートスポーツの振興とマナーの向上・普及を目指しながら、アーバンスポーツを通じて子どもたちや若者が地域とつながる取り組みです。踊る場所が、誰かにとっての居場所になる。昔の僕みたいに。そんな街を増やしていきたいですね。
他にも、北九州市の小倉駅構内には、ガラス張りのダンススペースができて若者が自然に集まるようになっています。
自己肯定力を学ぶツール、地域と子どもをつなぐツールとしての役割
スポーツ化が進む中で、教育的な価値も見直されています。体育の授業で、ブレイキンを取り入れる小中学校も増えているそうですね。
特に、自信がなさそうだった子の表情がみるみる変わります。
ブレイキンには「自分を肯定する力」がある。人と違うことをやって評価される点が、子どもたちにとってすごく魅力的です。先生方もそこに関心を示してくれていますね。
現在の地域コミュニティにも影響を与えているとか。
地域のお祭り、商店街のイベントに参加することも増えました。ブレイキンには、人を惹きつけるエネルギーがある。世代や国籍を超えて楽しめるし、僕自身、地域の人たちとのつながりが深まって、街を巻き込んで、人と街が一体化して明るくなっていくのを感じています。
京都市では、部活動の地域移行と連携して学校と街を結んでいます。指導者の存在が絶対ではなく、仲間と技を磨いていけるブレイキンは、ピッタリなスポーツです。
気持ちを言語化して、対話を楽しめる人になってほしい
ブレイキンは今後どのように発展していくでしょう。

ブレイキンは、1970年代ニューヨークのブロンクスという貧困地区が発祥とされるストリートカルチャー。スポーツ化でテレビへの露出も多くなり、最近の日本では、オリンピックで活躍した選手の影響もあってか子どもに習わせる親も増えました。裾野が広がってきたのを感じます。
スポーツとカルチャーで大会のルール、評価基準は違いますが、どちらをやるにしても、ルーツを知って、ストリートの精神を持つ必要があると思いますね。
パリ五輪でブレイキンが世界の舞台に立てたことは、ストリートカルチャーが、国境を越えて認められたという意味で大きい。2028年ロサンゼルス五輪の除外は残念ですが、むしろ、ここからがブレイキンにとって本当の勝負。スポーツとしての普及とカルチャーの良さを融合させて、我々が切り開いていく覚悟でやっています。
2026年アジア競技大会(開催・名古屋)を盛り上げて、2028年国民スポーツ大会(開催・長野)の公開競技の成功にもつなげたい。今、県ごとに強化や普及活動も求められていて、ヒップホップダンスをやってる人を取り込んでいくのが次のマイルストーンです。
チーム戦形式の大会構想も進んでいます。
最後に、ブレイキンを楽しむ若い世代に伝えたいことはありますか?
僕は、ブレイキンは「踊る対話」だと思っています。
個人競技に思われがちだけど、そうじゃない。見せ合う仲間が必要で、チームスポーツです。バトルも、ただ技を見せ合うだけじゃなく、相手とのコミュニケーションの場なんです。動きの一つひとつにお互いの気持ちを込める。「自分はこう思って、この動きを選ぶ」し、「その技かっこいい!だったら、この動きで応える」。
言語化することが重要で、踊りの理解も深まります。
言葉にすることは、自分の考えを整理し、理解するための大切なプロセス。言語化することで、自分の強みや課題にも気づけるし、周りにも想いを共有できる。そこに「問い」もあるのが、僕のいう「会話じゃなくて対話」です。
ダンスも人生も、結局は「対話」じゃないですかね。自分も認め、他者もたたえる。それをダンスで表現するのが、ブレイキンなんだと感じています。

スポあん豆知識:ブレイカーファッションが“ダボダボ”なわけ
成長しても着られるようにとオーバーサイズが定着していた、ブレイキン発祥の貧困地区。それがB系ファッションとして広まりました。
当協会も、時代のニーズに合わせたブレイキンなどのアーバンスポーツを応援していきたいと思います。
今後、マルチスポーツ・カルチャー振興として他のスポーツや文化団体とも協働したイベントも開催する予定です。
お忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。

