

埼玉県出身。中学から大学まで野球を続け、卒業後の1999年にJICA青年海外協力隊派遣で南米・エクアドルへ渡り、2年8カ月 少年野球の指導にあたる。帰国して中高一貫校で教鞭をとった後、2006年に全日本軟式野球連盟に入局。現在は事務局長として、選手が主役の競技環境の整備と合わせ、全国大会の運営、連盟規則の見直し、指導者養成などの業務にあたりながら、自身の子ども2人のスポーツも応援中。
野球人気は、2023年WBC(ワールドベースボールクラシック)の日本優勝や、大谷翔平選手ら日本人選手のメジャーリーグでの活躍もあって高まっているものの、アマチュアの競技人口は年々 減少しています。対策は元より、時代のニーズに合わせた「野球を楽しむ」環境づくりに挑戦し続ける(公財)全日本軟式野球連盟 事務局長 吉岡大輔さんに、実体験を活かした取り組みを伺いました。
「伝統だから、このままでいい」わけではない
まだプロ野球は人気がある一方で、野球競技人口は減少していると聞きます。少子化など社会状況の影響が大きいのでしょうか。
学童の野球人口の減少が良く取り上げられます。
実際のところでは全日本軟式野球連盟(以下、全軟連)に登録をされているチーム数は、ここ15年で学童だけでけではなく一般チーム(企業チームとクラブチーム)も大幅に減少していて、かなり深刻な状況です。(グラフ参照)
時代のニーズが変化する中、残念ながら、スポーツを「楽しむ」目的から逸脱する“古い体質“を変えられない球界の雰囲気が、少なからず影響しているかと思います。
近年、安全面でも様々なスポーツで熱中症対策による競技者・関係者を守るためのルールが議論されます。野球でも、夏の大会における開会式などは一部、昔からの伝統に縛られ過ぎない運営にシフトチェンジする勇気も必要ではないでしょうか。
全軟連でも伝統に縛られた厳しい服装に関する規定がありましたが、安全面と競技運営性に問題がないものは見直してきました。
全軟連では、一般部を競技レベル別に3種別(A・B・C級)に分けていますが、B・C級やいわゆる“草野球”については、もっと「遊び」に近づけつつ、審判も選手も互いに敬意を払うような試合環境を目指しています。「連盟に所属して大会に出場してみよう」という声が上がるような運営を全国に広めていきたいです。
「野球=国民的人気スポーツ」のイメージが強いですが、楽しめるスポーツでないと、競技人口の裾野は広がらないですよね。

「スポーツを楽しむ」という原点に立ち返った時、「考えてプレーする楽しさ」を伝えられる指導者の育成も課題です。
私の子どもたちがラグビーをやっている影響で、野球における指導者と選手との距離感、関係性について見直す機会がありました。
野球の試合は、選手がとにかく指導者のサインで動きます。ラグビーは、選手自らが戦術を練って監督は遠くのスタンドから見守るスタンスです。
子どものラグビーでも指導者が指示しすぎるようなことはありません。
考えるプレーは楽しいですし、壁にぶつかったらみんなで解決していく力もチームスポーツに必要だと感じます。

また、裾野を広げるには小中学生への浸透が不可欠ですから、「野球って楽しいよ!」という“直球”なネーミングのイベントにも力を入れています。
ただ、野球を売りにしても野球と接点のない子どもは出てこないので、家族が集まるような場所で「ストラックアウト」、「Tボール打ち」、「ベースラン鬼ごっこ」など野球の基本動作を取り入れた未経験者でも楽しめるものを行っています。
ショッピングモールで開催した「親子キャッチボール」も大好評でした。
親が経験者でないと、小さい頃にそのスポーツとの接点は、あまりないですよね。イベント体験が「楽しかったから、近くのチームの練習を見学に行ってみようか」というきっかけになることを期待しています。
「楽しいのか?」と問われた、2度のターニングポイント
「楽しい野球を広めたい」という熱意の原点は、どのような体験にあるんでしょう?

大半が「ベースボールって何?」という子どもたちに型通りに教えても、まるで興味を持たれませんでした。当初は物珍しさに100人も集まっていたのに、3か月後にはたった2人になって、さすがに落ち込みましたね(苦笑)。
JICA派遣を終えた後、高校教諭時代は、それまでの経験をどうアウトプットしたんですか?
体育授業、野球部で考えて表現すること、スポーツマンとしての成長は実生活にも通じることを伝えました。
例えば、授業の実技と関係なく、最後5分間を生徒1人1人の発表の場にして、自分という人間を皆にどう伝えたらよいかを考えて貰いました。
また、進学校で受験勉強に猛進する中、「試合に勝ちたい」という部員たちには、まずは周りから認められるように、校内で“頼られる運動部”のみが手伝う「式典の椅子並べ」に選ばれることを最初の目標にさせました。
なぜそれが目標で、達成に必要なことは何なのかを理解して成長した彼らは、最後の夏、1勝の夢も果たしましたし、受験の合格にもつなげていました。
私は今、ご縁とタイミングが重なって運営側で野球に向き合っていますが、指導者の在り方を考える上で、高校教諭は貴重な経験になりました。
スポーツに“怒り”はいらない
昔からのスポーツにありがちな、行き過ぎる「熱血指導」や試合中の不適切な行為に対し、全軟連はどのような対策を講じていますか?
学童野球の指導者に対するライセンス化に着手し、2024年から公認学童コーチ資格の義務化を本格導入しました。過度な指導を抑制して、子どもが伸び伸びプレーできる環境を当たり前にしていきます。
指導者が怒鳴って勝てるわけじゃない、目的と理由、根拠を示して適切に指導すればいい。「勝つために、教えてやっている」というプライドが強い指導者は、改めるべきですね。
私も肝に銘じていますが、自信とプライドを混同してしまうと、誰もついてきてはくれません。

「スポーツマンシップ」とは何かを再認識してもらうことも現在の課題です。
選手も指導者も応援する人も、自チームだけではなく相手のチームにも敬意を払い、懸命なプレーを称え合うのは、当然の心得です。
でも、興奮の余りマナーに反する態度が目につくこともあったので、全軟連は今年から「マナーを守った節度ある応援」を競技者必携に追加しました。
加えて、アフターマッチファンクション(試合後の交流会)も試行しています。
試合が終われば「ノーサイド」の敵味方なくリスペクトし合う精神で、相手のプレーや行為を称え合います。
互いに敬意と感謝の気持ちが生まれて、勝ち負けに関係なく晴れやかな姿があり、今後もどんどん大会に取り入れたいです。
経験競技、性別、場所を問わない「Baseball 5」を野球の入口に
現在「Baseball 5」の普及活動をされていますが、どういったスポーツなのですか?
「Baseball 5」はWBSC(世界野球ソフトボール連盟)が推進する5人制のアーバンスポーツです。
日本では、 全日本野球協会が窓口となって「Baseball 5 JAPAN」事業を推進し、私も副委員長として委員会運営に携わっています。全軟連も新興事業として、体験会を各地で実施しています。

今年3月に台湾で開催された「2025第2回ユースアジアカップ」では、日本チームが大会初出場で優勝し、高校生の女子選手がMVPに選ばれました。
一方で、9月にメキシコで開催された「2025第2回ユースワールドカップ」では7位と世界の壁を実感したところです。
2026年のユースオリンピックの種目にも採用されていますので、時間がない中ですが、野球・ソフトボール界を中心に有能な選手の育成に努めたいと思います。
「Baseball 5」はダイナミックでありながら、屋内外問わず、ゴムボール1つで老若男女が挑戦できます。
ハンドボール、テニスなどの能力も発揮できるマルチスポーツでもあり、パラスポーツ競技者と一緒に楽しめるのも大きな魅力です。
野球がベースになっているものなので、気軽に楽しめるものとして、特に子ども達の野球への入り口としての効果や結果的に野球の振興にもつながれば良いと思っています。
社会に出た時に「やってよかった」と思える、野球経験を
野球少年・少女や、これから挑戦してみようという子どもたちに、より楽しい野球の未来があるといいですね。
そうですね。
今は、全軟連の一員として謙虚な姿勢で、他の野球団体やスポーツ団体に協力を仰ぎながら、時代のニーズに合った振興に努めていきます。

まずは、外に出て思いっきり体を動かす機会を積極的につくってあげたいです。気軽にマルチスポーツに取り組める環境も整えて、自身に合うスポーツを見つけてほしいですね。
競技間で選手を取り合うことなく、まずはスポーツに触れてもらう機会をつくることが重要だと思います。もちろん、結果、野球を選んでくれたら大歓迎します。
私は周囲の方々や運に恵まれた野球経験を通して、世界とつながる仕事もできるようになりました。野球の国際会議は英語とスペイン語なので、エクアドルで培った語学力が活かせています。
子どもたちには、仲間を大切に、野球を楽しみながら、ゼロからイチを創り出す発想と思考力、協調できる人間性の土台づくりになる経験を積んでほしいですね。社会に出た時に、それが糧になってくれたら嬉しいです。