成長期の女性アスリートは「エネルギー不足」に注意!

小学校高学年から中学生年代は、身長や体重の増加、ホルモン分泌の急増、骨量の急激な増加など、身体が大きく成長する時期です。この時期の女性アスリートは、成長期特有のケガに加え、内科的トラブルが起こりやすいという特徴があります。なかでも「利用可能エネルギー不足」、「無月経」、「骨粗しょう症」は「女性アスリートの三主徴」と呼ばれ互いに関連性があり特に注意が必要です。

今回はその三主徴のなかでも、成長期の女性アスリートに多い「エネルギー不足」や「無月経」を中心に、アスリート本人やその家族、指導者に知っておいてもらいたい重要なポイントを解説します。

10代女性アスリートが注意すべき「エネルギー不足」

性別に関わらず10代を中心に最も気をつけなくてはならない概念のひとつが、Relative Energy Deficiency in Sport(REDs)=「相対的エネルギー不足」です。

これは消費するエネルギー量(練習量)に対して、摂取エネルギー(食事量)が慢性的に不足している状態を指します。成長期はそもそもエネルギー需要が高い時期です。そこにハードなトレーニングが加わると、想像以上に多くのエネルギーを消費することになります。

成長期では「体重を増やしたくない」という思いから無意識に食事量が不足するケースも少なくありません。しかし、体重が増えることはこの年代では異常ではなく、正常な発育です。不調を感じたら、食事量・食事内容を見直してみましょう。

月経異常(無月経・月経不順)の原因と医学的サポート

初経から数年間は周期が安定しないこともありますが、「始まったばかりだから不規則なのは普通」と見過ごされがちです。しかしながら、背景に相対的エネルギー不足がある場合にも、月経異常がみられることがあります。将来の骨密度に大きな影響を与える可能性があるため、月経が3カ月以上来ない(無月経)、周期が極端に短い、経血量が極端に少ないといった場合は放置せず、簡単に記録を付けたメモを持って専門家に相談するとよいでしょう。

月経が止まる無月経や、安定しない月経不順だけでなく、月経前や月経中の「心身の不調」も重要なサインです。下腹部痛や腰痛(月経痛)、イライラ、集中力の低下、体重増加といった症状、PMS(月経前症候群)により、練習に身が入らない・思うように動けないと感じる選手も少なくありません。

「生理だから痛くて当たり前」「我慢すべきもの」と一人で抱え込まず、低用量ピルなどの医学的なサポートを受けることで、症状を和らげ、パフォーマンスを安定させることも選択肢のひとつです。医師に処方される低容量ピルはドーピングの心配もありませんので、安心して相談してみてください。自分の月経周期と不調の波を把握し、指導者とも共有できる関係性を築いていきましょう。

鉄欠乏性貧血による身体への影響と早期発見

思春期の女性が相対的エネルギー不足に陥った場合に、非常に多い問題のひとつとして起こるのが「鉄欠乏性貧血」です。疲れやすい、走れなくなった、集中力が続かないなど、こうした変化の背景には、鉄不足があることも少なくありません。
思春期の女性の身体の中では大きな変化が起こっており、月経の開始に伴い鉄需要が増加します。さらに持久系スポーツでは特に、発汗による鉄損失、足底への衝撃による溶血、食事制限などが加わり、鉄不足が起こりやすくなります。
集中力の低下や朝起きられずに遅刻を繰り返すことで、「やる気がない」と誤解され見過ごされることがあります。背景に医学的な問題が隠れている場合もあるため、あてはまる症状がいくつかあるなら医療機関を受診しましょう。

骨密度低下に伴う疲労骨折のリスクと将来への影響

月経を周期的に起こす女性ホルモンのひとつに、「エストロゲン」があります。月経不順や無月経が起きている場合は、このエストロゲンが十分に分泌されていない可能性があります。エストロゲンは月経を規則正しく起こすだけでなく、骨密度を維持するという重要な役割もあるため、分泌不足はすなわち、骨密度の低下を意味し、骨折・疲労骨折などが起こりやすくなります。言い換えると、疲労骨折が多くみられる10代の女性選手では、月経不順や無月経が生じている可能性を考慮する必要があります。

特に思春期は、「最大骨量(ピークボーンマス)」を形成する極めて重要な時期です(女性の最大骨量は12~14歳頃)。この時期に相対的エネルギー不足による月経異常が発生すると、ホルモン環境が乱れ、疲労骨折や妊娠・出産後の骨粗しょう症リスクの増加、閉経後の骨折リスクの増加につながる可能性があります。月経不順に気付いたら、早めに専門家に相談しましょう。

  • 出典:「はじめようプレコンセプションケア」(こども家庭庁)「適正な体重とは?知っておきたい自分の身体について」をもとに作成

早期受診と相談しやすい環境づくりの重要性

どのようなケガや問題にも言えることですが、相談しづらいトピックでも選手にとって話しやすい環境づくりがとても重要です。

パフォーマンスの問題だと思っていたことが、実は内科・婦人科系疾患の症状であったということも少なくありません。婦人科は決して特別な診療科ではありません。整形外科や内科などと同様、おかしいと感じることや、専門医に相談したいことがある場合は、できるだけ早く受診し、前向きにアプローチしていきましょう。

<著者>

NPO法人スポーツセーフティージャパン 副代表

八田 倫子

オレゴン州立大学ヘルス&ヒューマンパフォーマンス学部卒
米国BOC公認アスレティックトレーナー(ATC)
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー
帝京平成大学人文社会学部非常勤講師
雙葉中学校・高等学校バスケットボール部トレーナー
目黒区立東山中学校アスレティックトレーナー