ジュニアのための睡眠 ~成長とスポーツパフォーマンス向上のために~

スポーツに打ち込むジュニアアスリートにとって、質の良い睡眠は成長とパフォーマンス向上の鍵。練習も勉強も遊びも全部頑張る忙しい現代の子どものために、限られた時間を有効に使って睡眠時間を確保するためのヒントと、質の良い睡眠を取る方法を、睡眠の専門家が伝授します。全てをいきなり実践するのは難しくても、ひとつでも、少しずつでも、できるところから親子で取り組んでみてください。

「睡眠」によってスポーツ&勉強のパフォーマンスを向上する方法

睡眠の大切さについて—5つの視点から—

スポーツに打ち込むジュニアアスリートの保護者や指導者の皆さんは、毎日が時間との闘いかもしれません。学校の授業、練習、宿題、そして友達との時間や家族との団らん。やりたいことがたくさんあるのに、時間が足りないと感じることも多いのではないでしょうか。特に、成長期真っただ中の小中学生にとって、質の良い睡眠は心身の成長だけでなく、スポーツのパフォーマンス向上にも不可欠です。では、なぜ質の良い睡眠が小中学生の成長に重要なのか、睡眠不足がどのような悪影響を及ぼすのか、そして明日から実践できる睡眠の質を高めるための具体的な工夫や、時間管理のコツまで解説していきます。

質の良い睡眠は、子どもの可能性を大きく広げる5つの力を持っています。近年の研究により、小中学生における慢性的な睡眠不足は、単なる疲労感を生むだけでなく、認知機能、運動能力、身体的成長、そして免疫機能など多岐にわたって悪影響を及ぼすことが明らかになっています。その具体的な影響を解説します。

(1)集中力や記憶力の向上↔︎認知機能への悪影響

学童期(小学生)の睡眠不足は、注意機能の低下、ワーキングメモリの容量減少、そして長期記憶の固定化の阻害と関連していることが示された研究が複数あります※1。睡眠中に脳は日中の情報を整理し、記憶として定着させる重要な役割を担いますが、睡眠時間が不足するとこのプロセスが妨げられます。その結果、授業中の集中困難や、学習内容の記憶効率の低下を招き、学業成績に負の影響を与える可能性が指摘されています※2

(2)パフォーマンス向上とケガリスクの低下↔︎運動能力への悪影響

アスリートを対象とした研究※3では、睡眠不足になると反応時間、精度、持久力といった運動パフォーマンスの低下と関連することが指摘されています。小中学生においても同様に、十分な睡眠は運動技能の習得と維持に不可欠であり、睡眠不足は運動能力の発揮を妨げる可能性があります。さらに、睡眠不足による注意散漫や判断力の低下は、スポーツ活動中の予期せぬケガのリスクを高めることも示唆されています※4

(3)成長ホルモンの分泌促進↔︎身体的成長への悪影響

成長ホルモン(GH:Growth Hormone)は、骨や筋肉の成長に重要な役割を果たしますが、その分泌のピークは主に夜間の深い睡眠中に迎えます※5。睡眠不足や睡眠の質の低下がGHの分泌量を減少させる可能性が示唆されており※6、成長期にある小中学生にとって、慢性的な睡眠不足は正常な身体的成長を妨げる要因となることが懸念されています。

(4)免疫力の向上↔︎感染症リスクの増加

睡眠は免疫システムの調節にも重要な役割を果たしています。睡眠不足は、ナチュラルキラー細胞の活性低下や炎症性サイトカインの増加を引き起こし、免疫機能を低下させることが研究で示されています※7。その結果、小中学生は風邪やインフルエンザなどの感染症にかかるリスクが上がる可能性があります。

(5)気分の向上↔︎精神的健康への影響

近年の研究では※8、小中学生の睡眠不足が、抑うつ症状、不安、易怒性(いどせい:イライラしたり怒りっぽくなる)といった気分の悪化と関連していることが報告されています。慢性的な睡眠問題は、将来的な精神疾患のリスクを高める可能性も指摘されており、精神的な健康を維持する上でも、質の良い睡眠の確保は非常に重要です。

睡眠の質を高めるための具体的なヒント

寝る前のルーティンを作る

毎日同じ時間に寝起きし、寝る前は入浴、読書、リラックスできる音楽などで心身共に眠る準備をし始めます。覚醒させるスマホなどデジタルデバイスは寝る1時間前からできるだけ避けましょう。代わりに、読書をしたり、家族と会話を楽しんだり、リラックスできる音楽を聴いたりする時間に変えてみましょう。より質の良い睡眠につながります。

寝室の環境を整える

温度(夏場25℃前後、冬場18℃前後)、湿度(50~60%)を適度に保ちましょう。寝るまでの間に冷房を利用して寝室を冷やす場合は、寝る30分〜2時間前から作動させ、壁や家具も冷やしておくことで、室温の急な上昇を防ぎやすくなります。音や光が気になって眠れない場合や、睡眠の質をより高めたい場合は、遮光カーテンで光を遮断し、耳栓などで騒音を抑えるという方法も有効です。できるだけ暗く、静かな寝室環境を整え、子どもの体格や寝姿勢に合った寝具を選ぶことが重要です。

カフェインや糖分の摂取を控える

寝る前のカフェインや糖分の摂取は避け、消化の良い食事、早食いを避けることを心掛けましょう。

適度な運動

日中の適度な運動は入眠を促しますが、寝る直前の激しい運動は避けましょう。入浴後に静的ストレッチを行うのも効果的です。

練習や塾の帰りの移動時間は「眠らない(眠らせない)」

入眠に影響する練習や塾帰りの移動時間はなるべく眠らないように工夫し、夜の睡眠リズムを崩さないようにしましょう。

日中の過ごし方を見直す

質の良い睡眠のためには、日中の過ごし方も重要です。朝起きたらしっかりと朝日を浴びて体内時計をリセットし、規則正しい睡眠リズムを保ちましょう。栄養バランスの偏った食事は睡眠の質を損なう可能性があるため、規則正しくバランスの取れた食事を心掛けるようにしましょう。

時間スケジュールの見える化から始めてみよう

起床時間を基準にして、何時間眠るかを逆算して就寝目標時間を決め、睡眠時間以外の時間の使い方を考えてみましょう。

「時間がない!」と感じている皆さんは、まず親子で子どもの1日の時間の使い方を「見える化」してみましょう。ノートや手帳に、学校の授業、練習時間、食事の時間、宿題の時間、自由時間、そして睡眠時間など、毎日何にどれくらいの時間を使っているかを書き出してみてください。

青色:必ず行わなければならないこと(移動、入浴、食事、宿題、翌日の振り返り、翌日の準備、就寝準備、身支度など)
水色:できるだけ行いたいこと(家族の団らん、友達とのコミュニケーション、自身の楽しみなど)

このように色分けすることで、1日の時間の使い方が一目で分かります。

「意外とゲームに時間を使っているな」「もう少し早くお風呂に入れば、寝る前のリラックスタイムを増やせるかも」といった気付きがあるはずです。自分の時間の使い方を客観的に把握することで、無駄な時間を減らし、本当にやりたいこと、そして質の良い睡眠のために使える時間を見つけることができるようになります。

例えば、朝7時に起きる必要があるなら、9時間の睡眠時間を確保するためには、夜10時までに寝る必要があります。このように、起床時間から逆算して就寝時間を意識することで、「あとどれくらいで寝る準備を始めなければいけないか」が明確になり、計画的に行動しやすくなります。最初は難しくても、少しずつ就寝時間を早めるように意識してみましょう。

睡眠時間を削ってまで無理をするのではなく、しっかりと休息を取りながら、メリハリをつけて取り組むことが、長期的にスポーツも勉強も遊びも「全部頑張る」ための秘訣です。

まとめ:質の良い睡眠は成長と将来への投資

この記事では、スポーツに打ち込むジュニアアスリートの皆さんが「全部頑張りたい!」という夢を叶えるために、質の良い睡眠がいかに重要であるか、そしてそのための具体的な方法について解説してきました。

質の良い睡眠は、集中力、記憶力、運動能力を高め、ケガのリスクを減らし、成長ホルモンの分泌を促し、免疫力を向上させるなど、皆さんの成長と成功にとって不可欠な投資です。できることを今夜から実践して、質の良い睡眠を味方につけ、充実した毎日を送ってください。皆さんの輝かしい未来を応援しています!

<著者>

株式会社ユーフォリア 博士(スポーツ科学)
/ アスリートスリープスペシャリスト

安藤 加里菜

東京都出身。早稲田大学スポーツ科学部スポーツ医科学科卒。
株式会社ユーフォリア法人事業ディビジョン所属。国立スポーツ科学センター勤務後、早稲田大学睡眠研究所を経て現職。

 ※1 Carskadon & Dement, 2017; Curcio et al., 2006など | ※2 Tarokh et al., 2016 | ※3 Gupta et al., 2017; Mah et al., 2011 | ※4 Milewski et al., 2014 | ※5 Van Cauter et al., 2008 | ※6 e.g., Zaffanello et al., 2023 | ※7 Irwin et al., 2016 | ※8 Lo et al., 2016; Gregory et al., 2009