
スポーツ中に起こったケガの応急手当てのうち代表的なものが「RICE(ライス)処置」と呼ばれるものです。Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression (圧迫)、Elevation(挙上、ケガした部位を心臓より高くすること)という4つの手当てを、英語の頭文字を用いて総称します。ケガが発生したときに慌てず対応できるよう、コーチや保護者の皆さんには知っておいてほしい応急手当てですので、今回はRICE処置の4つの手当てについて詳しくみてみましょう。
ケガをすると「炎症」が起こる
RICE処置の説明の前に、まずはケガをしたときに起こる炎症について理解する必要があります。
炎症とは、ケガや手術などで身体の組織が損傷する際に生じる生体反応です。ケガをして炎症が起こると、疼痛(痛み)、腫脹(腫れ)、発赤(赤くなる)、熱感(触れると熱い)、機能障害(動かせなくなる)などの症状が起こります。
特にケガをしてから48時間から72時間は「急性期」とされ、この炎症が拡大すると、重症化したり回復の遅延などに影響したりするため、RICE処置が重要です。
RICE処置の手順
Rest (安静)、Ice(冷却)、Compression (圧迫)、Elevation (挙上)の4つの手当てをセットで行う応急手当ての基本、RICE処置を一つ一つ手順を追ってみていきましょう。
まずは「安静」。安静にすることによって、身体の組織のさらに損傷したり、損傷部位が拡大したりすることを防ぎます。また、身体を動かしていると、血流が促進され、内出血が起こる原因になります。内出血が起こると、腫れが酷くなりケガからの回復に時間がかかってしまいます。
また、「安静」には、「固定」と「保護」も含まれています。医師の診察を受けるために医療機関へ向かう際、ケガを悪化させないために重要になるのが「固定」です。さらに、三角巾や添え木(段ボール、雑誌などで代用可)などでケガした部位を固定し、「保護」することによって、痛みを低下させる効果も期待できます。
次に、「冷却」。冷却することによって、痛みを和らげることができます。冷却する際は、凍傷や、急に冷やすことによって発症することがあるアレルギーに注意する必要があります。過去に、冷却によってアレルギー反応が起きたことはないか、アイシングを開始する前に確認しましょう。また、部位によって冷却時間は異なります。太ももの前側の大きな筋肉をアイシングするときは20分は冷やしたいところですが、突き指などで指を冷却するときには同じ時間冷やしてしまうと凍傷になる可能性があります。
最後に、「圧迫」と「挙上」。圧迫、そして挙上することで腫れを最小限にする効果があります。圧迫は弾性包帯などを用いて行います。圧迫が強すぎると血行障害や神経障害を起こす原因になるため、強く巻きすぎないよう注意が必要です。手足を強く巻きすぎていないかを確認するために、指の爪の色で確認することができます。
指の爪を押してから手を離したときに爪の色が白からピンク色に2秒以内で戻るかどうか、強く巻きすぎて血行障害を起こしてしまっていないかを確認しましょう。
専門家の応急手当てはさらに高度化
スポーツドクターやアスレティックトレーナーなどのスポーツ現場で活動する応急手当ての専門家は、ケガの応急手当てとしてRICE処置だけでなく、POLICE(ポリス)やPEACE & LOVE(ピースアンドラブ)といった新しいアプローチを実践しています。専門家のいる大会などで目にすることもあると思いますので、知っておくと良いでしょう。
POLICEとは、RICEに「Protection(保護)」と「Optimal Loading(最適な負荷)」を取り入れた応急手当てです。「安静」ではなく、逆に「最適な負荷」をかけるものです。
これは、完全に安静にするよりも、ケガの状態に応じて適切な負荷をかけることによって回復を促進させるという考えに基づきます。よって、あくまでもケガの状態に応じた最適な負荷を判断できる専門家が実践する応急手当てです。
さらにもうひとつ、新しいアプローチとなるのが、PEACE & LOVEです。
PEACE & LOVEとは、Protection (保護)、Elevation (挙上)、Avoid Anti-inflammatories (抗炎症薬を避ける)、Compression (圧迫)、Education(教育)& Load (負荷)、Optimism(楽観思考)、Vascularization (血流を増やす)、Exercise(運動)の英語の頭文字を取ったアプローチです。
このPEACE & LOVEの特徴は、応急手当て(PEACE)だけでなく、運動療法(LOVE)も考慮した長期的な視点を含んでいる点です。
また、PEACE & LOVEには、Ice(冷却)が入っていません。
身体がケガから修復する際の自然なプロセスが炎症反応であるという考えのもと、冷却や抗炎症薬の使用を避けることを推奨しているのもこのPEACE & LOVEの特徴になります。
このPEACE & LOVEは、POLICEと同様に、指導者や保護者が実施する応急手当てではなく、スポーツドクターなどの医療従事者やアスレティックトレーナーなどがケガの種類や炎症の範囲に応じて判断され、実践するものです。
応急手当てに分類されるPEACEの最後の「Education(教育)」には、ケガをどのように治療するのか、どのようにスポーツに復帰するのかについて、学ぶ・理解することが含まれています。ケガをした選手(未成年の場合であれば保護者)が、どのようにスポーツに復帰していくか、具体的には何をしてはいけないのか(禁忌事項)、どのようなエクササイズなどを自宅などで取り組んでいくのか(ホームエクササイズ)、といったことを学びます。
選手がケガをしてこれらの専門家の処置を受けたり病院にかかったりした場合、スポーツ現場の指導者は、診察した医師やリハビリテーションを行った理学療法士などの専門家からどのようなアドバイスを受けたか聞いておきましょう。競技復帰に向けて、医療と家庭とスポーツ現場が協力体制を築くことが大切です。