
冬が終わると多くのスポーツ種目の活動が本格化してきます。シーズン前、シーズン中、シーズン後によってスポーツ現場を安全な環境にするためのアクションは変わります。今回は本格的なシーズンの到来を見据えて、これまで公開をした記事を基に各フェーズで対応すべき事柄を再確認していきましょう。
スポーツ事故の原因トップ3「トリプルH」とスポーツ現場のアクション
スポーツ現場で起こっている死亡事故や重度の後遺症が残るようなケガや病気の原因のトップ3は、突然心停止(Heart)、頭や首のケガ(Head & Neck)、熱中症(Heat)というデータがあります。英語の頭文字が全てHから始まるため、「トリプルH」として特に、スポーツ現場ではすぐに対処ができるように準備しておく必要があります。
準備のための具体的なアクションには、「知る(ヒト)」「備える(モノ)」「整える(体制)」という3つのステップがあります。
まず、突然心停止(Heart)については、指導者や保護者など活動に参加する大人を中心に、心肺蘇生法やAEDの使い方を学べる教育プログラムを受けておくことが大切です。また、普段から体調管理を心掛け、スポーツ参加前にはメディカルチェックを行うことが、無理なく安全にスポーツに参加させることにつながります。
そして、AEDは用意するだけでなく、人が倒れてから3分以内に電気ショックがかけられる体制を整える必要があります。
掲載記事:倒れてから3分以内にAEDが使える準備、できていますか?
次に、頭や首のケガ(Head & Neck)については、各競技団体や施設における最新のガイドラインを定期的に確認するようにしましょう。教育プログラムにより、症状・徴候や対応を学ぶだけでなく、本人または周囲の人が異変に気付き申告しやすい体制を整えることも重要です。スポーツドクターやアスレティックトレーナーなどの専門家がいる場合には、搬送するための搬送具や固定具があると速やかな対応ができるでしょう。
掲載記事:脳振盪の知識をアップデートしよう!
最後に、熱中症(Heat)については、熱中症を予防するための暑熱順化、適切な水分補給、体調管理、身体の冷却方法などの知識が学べる教育プログラムを受けることが大切です。水分補給が適切に行われているか体重を量ったり、選手本人がコンディションを尿の色でチェックできたりするようなチャートなども揃えておくとベストでしょう。脱水チェック法を紹介しています。
そして、熱中症の中でも重症度の高い「熱射病」の救急対応に必要な氷や水の用意は特に重要です。熱射病になってから30分以内に深部体温を39℃以下にできる体制を整えるようにしてください。
シーズン前の具体的なアクション

シーズン前の具体的なアクションは、メディカルチェックを含めた書類管理、備品管理、緊急時対応計画(エマージェンシーアクションプラン=EAP)研修の3つです。
小学校1年生から高校3年生までは学校で運動器検診が実施されているため、保護者は子どもが運動をするにあたって問題がないかを確認することができます。そのため整形外科的なメディカルチェックは必要ないでしょう。ほかに、緊急時連絡先や過去の大きなケガや手術など既往歴、アレルギー、薬の服用、保険の加入など緊急時に必要な情報が載っている書類を準備する必要があります。
チームの備品管理として忘れてはいけないのが救急箱の中身です。足りないものを補充するだけではなく、応急手当が必要なケガが発生したときにスムーズに取り出せるように整理することが大切です。
掲載記事:スポーツ現場の救急箱に必要なものリスト
EAP研修は、救護体制の準備を万全にするための取り組みです。EAPを作成し、選手や保護者、スタッフなどスポーツ現場に関わる全ての人が緊急時に迅速かつ適切に対応できるようにシミュレーション訓練を実施します。
また、スポーツ事故の原因トップ3である「トリプルH」だけではなく、骨折などのケガや落雷などスポーツ現場で想定される対応を検証します。
掲載記事:EAPを作成し、救護体制の準備を万全に!
掲載記事:スポーツ中の落雷から、どう身を守る?
スポーツ現場で起きる緊急事態といえば、プレー中に選手や審判に起こる事例だけではありません。ベンチで待機している選手や観客席で応援している人が倒れてしまうケースも想定できます。冬場のサッカーの試合中などではベンチにいる選手が低体温症になってしまうかもしれません。
掲載記事:手足の震えは体温低下の警告サイン!
シーズン中の具体的なアクション
シーズン中の具体的なアクションは、「EAPハドル」とコンディショニングです。
EAPハドルとは、ゲーム・イベント前にホームとアウェイのスタッフが緊急時のフローをごく短時間で確認するブリーフィングです。EAPが発動された際のヒトとモノの動きがスムーズになるよう、情報共有を行います。練習の場合には、EAPに載っている情報が正確か、AEDにはアクセスできるかなどを確認します。
コンディショニングとは、良いパフォーマンスを発揮するための自分の身体の状態を理想に近づける体調管理のことです。
コンディショニングには、選手個々で取り組むものからチームで取り組むものまでさまざまのものがあります。毎日の練習や試合でチームとして取り組む代表的なコンディショニングがウォーミングアップとクールダウンですが、ストレッチをうまく活用することが大切です。
掲載記事:ストレッチを武器に!楽しくスポーツをするためのストレッチ戦略
シーズン後の具体的なアクション
シーズン後の具体的なアクションは、情報や体制のアップデートです。チームでは、シーズン中にどのようなケガが多かったのか、緊急時での対応をどのように改善できるのかを検証し、次のシーズンを迎えることが大切です。また、改善点だけに目を向けるのではなく、前シーズンに比べて良かった点についてもフィードバックするようにしましょう。