スポーツ外傷・障害予防-柔道編

外傷・障害予防プログラム

柔道における外傷・障害プログラムは日本体育協会(現日本スポーツ協会)スポーツ医科学研究「ジュニア期におけるスポーツ外傷・障害の予防への取り組み-柔道-」において作成した「柔道きほん運動」を紹介します。

これは柔道における正しい身体の使い方を習得し、相手に怪我をさせない、また自分も怪我をしない柔道を体得することを目的としています。本プログラムは上達の段階に合わせ初心者向け(第1・2段階)、中級者以上向け(第3・4・5段階)に分かれています。

第1・2段階(10回2~3セット)

1人で行う運動 受身の動作

倒れる時にはおへそを見るように背中を丸め、顎を引きます。手を叩いて、倒れた時に受ける負荷を分散する動作のタイミングを養います。

ゆりかご運動

両膝を抱え込み身体を前後方向に揺らす。
後方に揺らした時に、後頭部が畳につかないように自分のお腹を見ながら行う。

頭の持ち上げ

両手をお腹において、頭を持ち上げる。
背中を丸め、顎を引き、倒れた時に頭が後ろに振られないようにする。

打ち手

仰向けの状態から首を上げ、後頭部が畳についていない状態を作りながら、同時に手で畳を叩く。手を叩く時に身体から45°の位置に広げて行う。
頭を上げたまま行うより、頭を上げながら手を打った方が実践に近い動きになる。

1人で行う運動 受身の前動作

受身の準備動作として、後ろに転ぶ前のしゃがみ込みや、前回りの前に膝立ちをして手を上げる動作を行い、勢いよく倒れないための動作を身につけます。

しゃがみこみ

後方に倒れる動作の前段階。立った姿勢から両手を前に出してその場にしゃがみ込む。できるだけ深く沈み込めるようにする。
このほかに2人組で背中を合わせたり、寝ている相手に座るなどで行う。

四つんばい片手上げ

前方回転の前動作。四つんばいの体勢から片手を上げる。その手を反対の脇の下に入れる。目は脇に入れた手を追う。また元の位置に戻す。

1人で行う運動 受身の前動作

相手を投げる時には、多くの技で片足で立ち上げた足で刈る、払うなどの動作が必要です。片足で立って足を上げましょう(前後左右)足を上げたまま移動(ケンケン、前後左右に移動)ができるようにしましょう。

片足上げ

片足立ちになり、足を持ち上げ膝を伸ばしたまま前後・左右に上げる。
上げたところで いったん止めたり、連続して動かす。

エアプレーン

両腕を横に伸ばし、片方の足を後ろに上げ同時に上半身を前に倒した姿勢を保つ。
横から見て、足と上半身が水平になるのが望ましい。

両足回転ジャンプ

立っている状態から真上に跳び上がり、180度回転して着地する。同じ方向に数回行い、続いて反対方向に回る。
この運動で技を掛ける時の身体の回転を覚える。

ケンケン移動

ケンケンで前や横に進む。足を替えずに左右交互に移動する。

第3・4段階(10回2~3セット)

寝技の基本

この運動は寝技の基本動作として一般的に行われています。身体を保持しながら足を動かしたり、移動をする運動です。
身体を保持する力を鍛えることができるため、相手に技を掛けられた時に対応する動作も身につきます。

クモ歩き

仰向けの状態で手を後ろにつき、お尻が畳につかないように手と足を交互に動かしながら前後に進む。

エビ

仰向けから自分の足で畳を蹴り、頭の方に移動する。蹴って、捻って体捌きを覚える寝技の練習の一つ。

脇締め

腕を前に伸ばし、肘から前腕で体重を支えながら脇を締め、身体を前に進める。
手を前に向け脇を締める時は掌が上を向くようにする。
肘が両脇についた時は身体を反らせ両脚の親指を立てる。

足回し

仰向けの状態から、頭を上げ足先で円を描くように回す。膝から下ではなく股関節を動かして、内回し、外回しと交互に動かす。

こうした寝技の補強運動は抑え込んだり逃げる動作はもちろん、腹筋を中心とした体幹部や股関節周りの運動にもなる。怪我を予防するための大切な運動の一つ。

相手を動かす運動 投技の動作(前に投げる技、つくり・くずし)

柔道の技の理論である「つくり・くずし+掛け」のうち、前に投げる技のつくり・くずしの動作を行います。

「つくり」は自分の動作、「くずし」は相手の動作を意味します。両手で相手を引くこと、投げる方に体が傾かないことを注意し、両足から片足(釣り手側のみ)でできるようにしましょう。

引き出し運動

つくり・くずしの基本動作。二人組で一方に帯の中央を持ち、帯を引く時に身体の軸を傾けないようにする。身体の重心をずらさないよう手の動きで引くようにします。

前に投げる時はつくり・くずしを行いながら身体をさばき、後方に向く。そのため片足でもできることが望ましい。

片足で行う時は釣り手(襟を持つ方)側の足で行う。

相手を動かす運動 投技の動作(前に投げる技、掛け)

柔道の技の理論である「つくり・くずし+掛け」のうち、前に投げる技の掛けの動作を行います。

安定した動作で前のめりにならないようにすることで、相手が受身を取れます。自分が頭から落ちないことが大切です。

担ぎ上げ運動

引き手は袖、釣り手は襟を持ち、双手背負投を掛けるように相手を背中に乗せる。
前方に投げて相手を落とさないようにすることで、安定した姿勢で技を掛けられるようにするのが狙い。
できる人は担いだままそのままスクワットや移動する。

後方振り上げ

二人組で一方の帯を持ち、両手でその帯を引きながら刈足を後ろに振り上げ、その状態でいったん静止する。
元の姿勢に戻り、連続して行う。足を振り上げる時、上半身が前にできるだけ傾かないようにする。
後ろに投げる技の掛けの動作にもなる。

振り上げケンケン

刈足を後ろに振り上げたまま、軸足でケンケンしながら前に進む。できるだけ足を上げたまま行う。

相手を動かす運動 投技の動作(後ろに投げる技、つくり・くずし、掛け)

柔道の技の理論である「つくり・くずし+掛け」のうち、後ろに投げる技のつくり・くずし、掛けの動作を行います。
両手で相手を引くこと、投げる方に身体が傾かないことを注意し、両足から片足立ち(引き手側のみ)でできるようにしましょう。

横引き出し

横方向に引き出し動作を行う。引く方向に身体を傾けないようにする。

横引き出し足振り

横に引き出す動作をしながら足を前後に振る。大外刈りの刈る動作になる。

第5段階(10回2~3セット)

相手を動かす運動 投技の動作(3人打ち込み)

柔道の技の理論である「つくり・くずし+掛け」を一連の動きとして行います。
安定した動作で、自分が崩れずに相手を動かすことができるようにしましょう。

3人打ち込み

技に入って相手を跳ね上げ(担ぎ)ながら相手を前に動かす。
後ろの人は掛けの段階で動かないように固定する。
さらにケンケンして前方に移動すると、より負荷が大きくなる。
安定した動作で技を行えることが目的。

柔道競技目次

<著者>

東海大学体育学部 教授

全日本柔道連盟 医科学委員会委員

宮崎 誠司

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