スポーツ外傷・障害予防-水泳編

外傷・障害予防プログラム
競泳では、水中練習の前に外傷・障害予防やウォーミングアップの目的で、陸上でエクササイズを実施します。胸郭や股関節の柔軟性の獲得を目的に実施するストレッチ、全身を連動させて身体の正しい使い方を学習するモーターコントロールエクササイズ、スイマーズショルダー予防のための肩甲骨周囲筋エクササイズを行います。
また、モーターコントロールエクササイズの実施により、日本代表選手では腰部障害が減少するなど、一定の効果が得られています。
Part 1 姿勢の確認・ストレッチ
ストリームライン姿勢の確認
「ストリームライン姿勢」は、競泳の基本姿勢です。肩関節や胸郭、股関節の可動域を確保した状態で、無理のないストリームライン姿勢の保持が重要です。
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〇背中が丸まっていない 〇腰が反っていない 〇しっかりと腕が上がっている -
×背中が曲がった状態 ×肩の柔軟性が低下した状態 -
×腰が反っている状態
胸郭ストレッチ
胸郭が硬いと、手を上げた際に肩に痛みが生じて、腰が反りやすくなります。肩痛や腰痛を予防するためにも、柔らかく保つことを心がけましょう。
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胸郭をひらいて、上体を側屈する -
サスペンションを引っ張り、胸郭をストレッチするのもよい
ハムストリングスストレッチ
太ももの裏側にはハムストリングス(大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋の総称)があり、この筋肉が硬くなると、骨盤の動きが制限されます。
タオルを用いると腰椎に負担をかけずにハムストリングのストレッチを行うことができます。
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タオルなどを使用して、 膝がしっかり伸びていることを確認しながら行う
大腿前面ストレッチ
大腿前面部にある大腿四頭筋は、推進力を生み出すためのキック動作に重要な筋肉です。大腿前面部が固くなると、骨盤が前傾し、腰痛に繋がる可能性があるため、柔軟性の確保が必要です。
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体を横向きにして寝て、上側の足を持ち、太ももの前面をストレッチする。 下側の脚を抱えて行うと骨盤の位置が安定する。 -
体を横向きにして寝て、上側の足を持ち、太ももの前面をストレッチする。 下側の脚を抱えて行うと骨盤の位置が安定する。
フルアークストレッチ
水泳は全身運動であるため、ストレッチにおいても胸郭と股関節の前面を連動させたストレッチが有効です。
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両脚を前後に開いて腰を下げる。両手を頭の上で繋ぎ胸郭を広げる。 胸郭と後ろ側の太ももの付け根を同時に伸ばすことができる。
臀筋・広背筋ストレッチ
大殿筋と反対側の広背筋は、胸腰筋膜を介して繋がっているため、連動したストレッチが有効です。
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うつ伏せの状態で片方の脚をお腹の下に入れて、上半身を曲げた脚側の方向に捻る。 臀筋と広背筋を同時に伸ばすことができる。
Part 2 モーターコントロールエクササイズ
トランクローテーション
クロールや背泳ぎでは、身体をローリングさせながら泳ぐため、体幹を安定させた状態で、胸郭回旋の可動性を確保することが重要です。肩痛や腰痛の予防に繋げましょう。
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四つんばいの姿勢になり、片方の手を後頭部に当てる -
骨盤を下に向けたまま、上体を回旋させ、胸郭をひらく
肩甲骨4動作
リカバリー動作で腕を上げるときに必要な、肩甲骨の内側の筋肉をうまく使えるようにするエクササイズです。
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うつ伏せの状態で肘を地面につけたまま90度に曲げる -
肩甲骨を内側に寄せながら両腕を上げる -
肩甲骨を内側に寄せたまま、腕を前方へ伸ばす -
両肘を90度の位置に戻し、②の姿勢を保持してから①の姿勢に戻る
サイドドローイン
側腹筋群のエクササイズで骨盤の安定化を図ります。
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腹部に力を入れ、わき腹を地面から浮かせる
インサイドブリッジ
側腹部と太ももの内側の筋肉を連動させるためのエクササイズです。
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上側の脚をイスやサスペンションに掛けて、上側の腕を胸の前について姿勢を安定させる -
体側に力を入れて、下側の脚と腰を浮かせる
パートナーと一緒に行う例
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上側の脚をパートナーの片膝に掛けて、上側の腕を胸の前について姿勢を安定させる -
体側に力を入れて、下側の脚と腰を浮かせる
バックブリッジ
臀部から体幹部の安定化を図るエクササイズです。臀部を上げたり下げたりすることで、臀筋や骨盤帯と体幹部の連動を促すことができる。
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腹部に力を入れた状態で臀部を持ち上げる
エルボニー
肘と膝で体を支持するフロントブリッジです。腰痛の予防に繋がる体幹深部筋を鍛えることができます。背中が丸まったり反ったりしないように注意して行いましょう。
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肘と膝を視点に腹部から大腿部を持ち上げる。このとき頭から膝までを一直線にすることが大切 -
骨盤や上半身の位置を保持したまま片方の手を上げる
スイミングプルアップ
上肢と体幹部を連動させてプル動作を行なうエクササイズ。パートナーの補助やサスペンションを利用して、腰が反らないように腹部に力を入れながら行います。
腹部の力を抜かずに頭から体幹・膝までが一直線になるようにして行う
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サスペンションの代わりにパートナーに支えてもらい行ってもよい