スポーツ外傷・障害予防-野球編
発生事例の解説
野球肘障害(上腕骨内側上顆下端裂離骨折/肘離断性骨軟骨炎)
投げる動作では、肘がしなるときからボールをリリースするときにかけて、肘関節に大きな負担がかかります。肘への負荷が蓄積して障害が発生する場合だけでなく、全力投球のような強度の高い球を投げた場合に、その一球で発生することもあります。
野球肘障害のなかで最も多いのは、肘関節の内側にある靭帯や筋肉の力で骨や軟骨が引っ張られ、骨折などを伴う肘内側部の障害です。小学生の3人に1人が肘内側部障害を生じているといわれています。
小学生、中学生では、骨軟骨の損傷が多く、高校生以上では靭帯の損傷が多く起きています。小学生の頃に肘内側部障害が生じ、治療を受けずにそのままにすると、高校生以上になって肘の靭帯損傷が起こる確率が高くなるため、ジュニア期から肘内側部障害の予防に気を配る必要があります。
肘内側部障害の初期治療は、剥がれた骨軟骨が癒合するまで装具やギプスなどで肘関節を固定することが推奨されています。装具やギプスで固定している期間やリハビリ中は、全身の柔軟性改善や投球動作の修正を行うのが望ましいでしょう。
また、肘がしなるときに、肘関節外側の骨同士がぶつかることで、軟骨と軟骨の下の骨が損傷する離断性骨軟骨炎が起こることがあります。障害発生率は2〜5%と低いものの、将来的に可動域が制限されたり、痛みが生じたりすることがあります。骨の成長が未熟な小学生、中学生に起こりやすく、発見が遅れると保存治療が難しくなり、手術が必要になることがあります。しかし、離断性骨軟骨炎は進行するまで痛みを伴わないケースが多いため、発見が遅れることが少なくありません。
最近では、全国各地でエコーを用いた野球肘健診が行われています。これらの早期発見のためにも積極的に受けて、早期治療につなげましょう。
野球肩障害(上腕骨近位骨端離開、腱板損傷、関節唇損傷、胸郭出口症候群)
野球肩障害は、肘がしなるときからボールをリリースするときにかけて、肩関節に回旋・牽引の力が加わることにより、肩関節の前方に強い負荷がかかって痛みが生じます。
成長期である小学生、中学生は骨端線が残っているため、投球時に骨端線部に負荷がかかり過ぎて骨端線が損傷してしまいます。高校生以上では、肩関節を安定化させるために重要な腱板や、関節唇が損傷することが多くあります。
投げ過ぎにより肩の後方の筋肉が硬くなったり、肩の前方の筋肉が緩んだりすることで痛みが生じやすくなるので、肩後下方のストレッチや、インナーマッスルを鍛えるトレーニングが重要です。
また、不良な姿勢や肩甲骨の動きが悪い場合にも痛みが生じやすいので、全身のコンディショニング管理も大切です。さらに、上肢の痺れやだるさや、肩、肘の痛みなどが生じる胸郭出口症候群も多くみられる障害です。重症化すると、長時間腕を上げることができなくなり、日常生活にも支障を来します。予防するためには、普段から姿勢に気をつけたり、ストレッチなどで肩甲骨の動きをよくすることが大切です。
腰椎分離症
打つ動作で生じやすい腰椎障害の一つに、腰椎分離症があります。腰椎分離症とは、体を捻る・反る動作を繰り返すことによって、腰椎椎弓・関節突起間部に負荷が蓄積して起きる疲労骨折です。
野球競技は、腰椎分離症の発生率が高いスポーツ種目のひとつで、素振りをし過ぎによる腰部への負担が大きな要因です。ジュニア期・青年期の未成熟な時期に生じることが多く、治療を受けずにそのままにすると、分離した骨がつかずに将来的に腰痛が生じて、生活に支障を来したり、野球の競技パフォーマンスの低下にもつながります。
初期は、反る・捻るなどの動作で痛みが生じ、ジャンプやランニングなどに支障を来すことが多くあります。初期治療は、コルセットを着用して、分離した骨がつくまで無理しないことが必要です。
予防のためには、股関節周りの筋肉のストレッチにより柔軟性を確保することで腰椎への負担を軽減するとともに、素振りの回数を見直しや、振り方の改善も大切です。
オスグット・シュラッター病
走る動作や跳躍動作を頻繁に繰り返すことで、膝のお皿の下の脛骨粗面に付着している筋肉に反復して負荷が加わり、軟骨部が剥がれたり、炎症を起こしたりするのがオスグット・シュラッター病で、野球競技に多い疾患のひとつです。成長期には骨が伸びることで筋肉が引っ張られ、柔軟性が低下しやすくなるため、急激な成長を伴う小学生・中学生の走り込み練習などで生じることが多くあります。痛みが長期化すると脛骨粗面部の骨端線がひらき、脛骨粗面の骨が徐々に突出してきます。
高校生以上でも、走る動作や捕球姿勢をとる際に痛みが生ずることがあり、そのままにすると生活に支障を来すことがあります。大腿四頭筋の柔軟性の低下が原因である場合が多く、下半身の全体的なストレッチや走る姿勢の改善などが予防につながります。
野球競技目次
- 野球競技の特徴
- 発生事例の解説
- 障害予防のためのセルフチェック
- 障害予防プログラム
- 動画で見る障害予防ガイド
当「スポーツ外傷・障害予防ガイド-野球編」は動画でも公開しています